CAE受託解析 (代表的な解析実績:境界条件非線形問題)
1.ゴムブロックの接触問題
これはAbaqus/Standardに用意された最新のSurface to Surface とペナルティ法による接触機能の紹介事例を弊社で調整した例題です。
2つのゴム製ブロックを互いに押し付けた状態で回転を与えるという一見簡単に見える問題ですが、以下の難しさがあります。
- ゴムは柔軟であるので押圧による変形量が大きく、また接触が開放されたときの弾性変形の戻りも大きい。
- ブロックの縁部分は角と角ないしは角と平面の接触であり、かつ微小な相対回転によって接触と非接触の状態が切り替わる。
- 一方、ブロックの内側の領域は平坦な面と面の接触状態にあり、まだらのない一様な接触面圧分布が表現されなければならない。
本例では、定常な回転状態を解析できていますが、従来の接触機能(Node to Surface、ラグランジェ未定定数法)ではわずかな相対角変位までしか解析することができないことを確認しています。
2.表面張力を考慮した溶融はんだの問題
液体の表面を仮想的に切ったとき、その切り口には、表面積を縮めようとする単位長さあたりの荷重が作用しています。この荷重は表面張力と呼ばれ、液体の寸法が小さいときには重力などの効果を上回り、支配的な荷重となります。はんだ接合は溶融したはんだの濡れ性を利用した微細な接合技術であるため、得られたはんだの平衡形状は表面張力の影響を強く受けています。
実際の問題では、下の写真に示すようにはんだ接合部の形状は疲労寿命に大きくかかわるため、その形状を予測する技術が求められています。また溶融状態のはんだに何らかの外乱が与えられると、その形状はそのまま維持されるか、あるいは他の安定な形状に移行します。下の写真は、このような動的な効果によって生ずる不具合の例を示します。
これらの問題は、単にはんだの平衡形状を特定するだけでは解明できず、その形状の安定性に関する知見を必要とします。本例では溶融はんだを粘性流体と考え、レオロジーの観点から材料構成則を定めるとともに、表面張力をモデル表面に組み込み構造系のFEMに適用しました。
例えばAbaqusの場合、クリープモデルと粘塑性モデルが考えられますが、これらの概念は単に溶融はんだの問題だけではなく、より一般的な流動性の問題に適用できます。高温下での樹脂の成形問題などがより広範な用途として考えられます。
また表面張力の組み込みには幾つか方法が考えられますが、弊社では表面の曲率に依存した法線方向圧力に換算する方法、あるいは部材力一定の膜をメッシュ表面に定義する方法を採用しています。
ピン差込み部まわりの接合。はんだ量の違いによって疲労強度に差を生ずる。
最下部の写真でははんだ量が明らかに不足し、亀裂が顕著に見られる。
濡れ性の不均一によって生じたはんだの片寄り。当初は正規の量のはんだが塗布されていたが、リフロー(はんだの再溶融による接合プロセス)において、濡れ性の高い方向にはんだが引き寄せらてしまった結果、中央のリードは連結(ブリッジ)してしまい、右端のリードは全く接合されていない。
慣性力などの外乱によって溶融はんだの一部が離脱し、ボールとなって基板上に残ってしまった状態。
供用中に脱落すると、大きなトラブルに結びつく可能性がある。
- ■ はんだバンプのセルフアラインメントの解析
リフロープロセスでは、ICチップが置かれた位置に多少の誤差があったとしても、表面張力の効果(表面積を最小にしようとする効果)によって、チップはパターン印刷上の本来の正しい位置に移動します。
この自己制御的な効果はセルフアラインメントと呼ばれ、光学用などの位置精度に厳しい分野では非常に重要な技術です。
セルフアラインメントについては、Goldman (IBM) に洗練された研究があり、平衡状態にあるはんだバンプにせん断を与え、荷重-変位関係が実測されています。
またバンプ形状を楕円で近似し、表面張力が表面積の変化に必要な仕事量に等しいことを利用して、せん断に伴うエネルギの変化が数値的に求められました。
Goldman は自身の数値解より低いところに真値があると予測しており、弊社のFEM解はその予測を裏付ける結果となりました。
- ■ 円管から滴下する水滴の自由落下問題
落下中の水滴は、表面張力によって支配された固有振動数で径方向に振動します。
この振動は、弦や膜と同様、幾何学的非線形性(初期応力)による固有振動であり、古典論による解が与えられています。
水の粘性係数は、粘弾性材料としてモデル化しました。例えばAbaqusでは、粘弾性材料モデルは動解析の中で使用することができ、本例のような問題に適用できます。
左の写真は東北大・須藤(1982)らによる計測例で、FEMによりその挙動を表現できていることがわかります。
3.はりの衝撃曲げ問題
この課題については、東工大・中原一郎先生に系統的な研究があり、綿密な理論解と実測値が与えられています。25mm角、長さ2.6mの長尺の鋼製のはりの中央を、やはり鋼製の丸棒で打撃する問題です。
衝撃的なはりの挙動に対しては、単純な曲げ(オイラーベルヌーイの仮定)だけではなく、回転慣性とせん断の影響を考慮したはり(ティモシェンコはり)を適用する必要があります。このようなはりは、本来、せん断の効果が無視できない、すなわち長手寸法に対して背の高い、いわゆる短尺のはりにおいてその効果が著しいことが知られています。
しかし衝撃問題では、衝撃当初の変形は打撃点のごく近傍に限られるため、その部分は決して長尺をなしているとは言えず、全長が長尺であってもこのモデルを適用することが必要となります。以上のような点に配慮して解析した結果、実測値を良好にトレースする解が得られました。